魔法が実在する。
 その事実を知らされたとき、私が真っ先に思ったのは「あなたは馬鹿ですか?」という一言だった。いや、その時点では人づてに聞いた話だったし、根拠も何もなにもなかったから冗談に決まっていると思っていたのだ。いつもは冗談なんて口が裂けても言わない真面目な研究仲間からの話だったから、おかしくは思ったけど、鵜呑みにするほど私も単純ではない。
 それが最高位級の研究者の公式発表となれば信じないわけにもいかなくなる。だって、科学技術の最先端をいく権威たちが大真面目に「魔法が存在する」なんて言っているのだ。しかも世界放送で。
 さすがにそこまで手間隙と金がかかった冗談をすることはないだろう。
 でも、やっぱり研究者として認めることはできても、一般常識的見地からは簡単に受け入れることはできなかった。小説とか、ライトノベルとか、マンガとか、ゲームとか、そんな二次元要素をいきなり「存在する」と発表されてもだ、信じられるものではない。
『究極的にまで発達した科学技術は魔法との区別がつかない』
 そんな言葉を思い出し、ただの比喩表現ではないかと何度も見直したほどだ。比喩じゃなく、ほんとうに「存在する」と明記されていたけれど。本当に魔法が存在するというわけだ。
 私が働く研究所内でも「魔法の発見報告」は大きな話題になっていた。
 驚くもの、納得するもの、賛同するもの、何をいまさらと現実と空想の区別が付かない二次オタ、徹底的に反対しありえないと持論を周囲に披露するうざいやつ。
 反応はみなそれぞれだが、私の場合、期待を抱く乙女心と冷静に分析しようとする研究者の両面の立場が存在した。発表された魔法の存在を証明する論文を読み解き、考えもした。理解はできた。が、納得と疑問は一緒にやってきた。現実的な分析もありながら、『精神』だとか『具現化』だとか複雑怪奇なファンタジーワールドが展開していたからだ。
 そんな私が魔法の存在を確信するきっかけになったのは、私自身が魔法を使えると知ったからだった。


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